最新の記事
以前の記事
2023年 04月 2023年 03月 2022年 09月 2022年 04月 2022年 03月 2021年 07月 2020年 12月 2020年 10月 2020年 08月 2020年 06月 more... 記事ランキング
カテゴリ
その他のジャンル
画像一覧
|
今年は雨の日が多く、10月に入って初めての日曜もやはり雨でした。この日、東京郊外、五日市の秋川をのぞむ高台に老後を考えた、2人だけの小さな週末住居を計画している施主夫妻と、五日市のさらに奥・檜原村の田中惚次さんの山へ木材の見学に行きました。田中さんは林業家ですが、小学校教頭をつとめる施主の学校で講演をお願いしたことがあり、知り合いだったのです。 私は以前、他の住宅で五日市の檜を使ったことがあり、今回五日市の週末住居ということで、最初から地場山林による産直材でつくることを考えていました。また、施主夫妻には家をつくる前から、自分の住宅に使用する木材が育っている山林を見て欲しいと思い、今日の見学となったのです。 雨に煙り、少し色づき始めた山を目の前にして、田中さん宅で山の話や木の話を聞かせていただき、また、私が木に抱く思いや経験をお話させていただきました。 私は職業柄、木には思い入れがあり、2人の娘も真木子、瑞木子と名付けたほどです。真木とは古語で桧を意味し、檜のようにかぐわしく、耐久性があり、計量不可の魅力を持つことを願ってひのき子。みずき子は、耐久性、強度などすべてにすぐれている木材で棟木として上棟時におめでたい木、火事から家を守る木として使われてきた水木からとりました。アメリカハナミズキは現在ブームで、街中で多く見かけますが、日本のミズキは山中にぽつんと大木として白い花をつけること・・・等々、田中さんはこちらの話をニコニコと、おおらかに聞いてくださいました。 当初、産直材でコストダウンを計ろうという目的で出向いた私に、田中さんは多くを語りませんでしたが、後日田中さんの著書『私は森の案内人』を読み、安直な思惑だけでは計りきれない、森林育成に対する深い考えや、日本の林業を蘇らせようとする幾多の試みが試されていることを知りました。その現状を実際に自分の目で確認したことにより、地場産業の育成、ひいては森林育成・保護への考え、試みに共感を覚えることが多々ありました。やがて、その驚きと共感は、そうしたネットワークに出会えたことへの大きな喜びへと、私の中で変化していったのです。 そこでランダムですが、『森の案内人』が取り組む問題・試みなど、ほんの一部ではありますが書き連ねてみたいと思います。 ● 雪害木を有効に使う 高尾~五日市・青梅一帯は、気候的に杉・檜に適した土地とされ、青梅林業地帯と呼ばれてきましたが、近年地球の異常気象・温暖化現象により、この一帯に水分の多い重い雪(湿雪)が降るようになってきました。その結果、この近辺には倒木がいたるところに見られます。田中さんは長年にわたって検討を重ね、こういった倒木や、松喰い虫の害で枯れた木を利用して、山内にコテージを完成させました。その宿泊料も貴重な収入源のひとつです。 ● 自然の森を救う山林/林道は魔法の杖 一般に、林道整備は、森林破壊の最たるものとして槍玉にあげられがちで、私自身の認識もそうであったことは否めません。ですが、田中さんの著書を読み、すべての林道を単純に否定してしまうことは、林業不振が叫ばれる現状に拍車をかけかねないという事実を知りました。もちろん、森の再生を妨げるような林道には大反対なのですが、果たして、すべての林道が一掃されるべき環境破壊の悪玉なのだろうか。鍵は田中さんが進める林業の方向性にあるようです。 かつて、林業においては安易に収入を上げるために、むやみな皆伐(一斉に木を伐採する)が行われることが多く、その結果、日本の森林は減少の一途をたどりました。しかし今、皆伐の悪影響は明らかです。田中さんは間伐や択伐で収入を得つつ、前述のようにコテージ経営等で収入を補いながら、高齢樹の森林を育てていくことに取り組んでいます。 林道という生産基盤が整備されてこそ、少ない人手で間伐・択伐が可能となり、皆伐しないことにより森林が育ちます。林業に携わる人々が収入を得ながらも質の高い森林に育て、受け継いで行くことができるのです。これらは、林業の振興に一役買うに留まらず、環境対策としても有効であるのは言うまでもないでしょう。 林業園において、必要最低限の林道の整備は積極的で美しい山づくりにつながる、まさに魔法の杖だったのです。 ● 林業経営 人手不足の時代をどう克服するか 林業において人手不足は深刻です。林業経営もさまざまなスタイルがあるので、一概に良否を決することは難しいものですが、田中さんが行っているのは、前述のように皆伐をやめ、林道が整備されることです。また、技術についてもいろいろな方面に出向いては積極的に取り入れています。そのひとつには、集材の労力を削減する「ジグザグ集材」なるものがあります。特殊なワイヤーロープを林の中にまさにジグザグに張りめぐらせて集材する方法で、良い結果を得ているそうです。 ● 森林の蘇生は多様な交流活動から 田中さんは都内という立地を生かし、都会人と森林を結ぶ架け橋という役割を積極的に行っています。近年、自然への関心は都会人たちの間で熱烈な高まりをみせています。田中さんの活動からはさまざまな交流が生まれ、都会人のニーズもさることながら、一般人の森林への理解・林業の振興にも貢献しているといえるでしょう。 田中さんの取り組みについて、ここですべてを明らかにすることは難しいことですが、特に森林と地球温暖化の問題については、林業の営みが深く関わっていることもあり、我々建築の造り手側も林業の育成に協力していきたいと考えています。 地球温暖化の問題は、21世紀に非常に大きな問題となるでしょう。気候変動をもたらした一番大きな環境破壊の原因はCO2です。第2が森林破壊とされており、1980年代には、日本の面積の約半分にあたる熱帯雨林が毎年消えました。それらを最小限に食い止めるためにも、外国材を輸入せず、他国の森林を伐採しないことが重要であり、そのためには、国内の林業の育成が不可欠となってきます。また、森林面積の拡大には針葉樹が有効です。針葉樹は広葉樹に比べて2倍以上の成長や蓄積をするので、国土面積が2倍に増えたと考えられるかです。 さて、21世紀に向かって、経済や社会構造の大変化の中で環境破壊、資源の枯渇を考えると、資源循環型社会に移行するでしょう。資源循環型社会とは生態系の中に存在するもので、無駄になるものは何もありません。この生態系の循環メカニズムを経済活動に取り込むことが、ゼロエミッション構想の出発点となっているのです。 周知の事実ですが、これからの社会では長持ちする製品や建築が求められていきます。また、リサイクルにより資源を無駄なく有効に利用・循環することも必須でしょう
by k2_plan
| 2009-12-29 11:35
| 建築家のつぶやき
|
ファン申請 |
||